2011年から、ミャンマーで口腔(こうくう)衛生に関するボランティア活動を展開している小児歯科医の松本敏秀さん(58)=福岡市早良区。9月中旬から約2カ月間、主に少数民族の住む地域を訪問した松本さんに、今回の活動を振り返ってもらった。 (佐藤弘)

 日本の約1・8倍の国土に約5140万人が暮らすミャンマーは、人口の7割を占めるビルマ族と134の少数民族からなる多民族国家。少数民族の多くは、インド、中国、タイなどと国境を接する山岳地域に住む。主にビルマ族が暮らす平野部の穀倉地帯に比べ、生活環境は過酷である。
 今回訪問した地域の一つが、ミャンマー最北部のカチン州。住民の多くは、イギリスの植民地時代に改宗させられたキリスト教徒だ。チーク材などの森林資源、翡翠(ひすい)、琥珀(こはく)、金などの地下資源は豊富だが、その利権を隣国の中国とミャンマー政府の一部が独占し続けているため、地元が潤うことはない。さらに宗教問題などが絡み、州の独立を訴える民族軍とミャンマー国軍は戦闘状態にあり、多くの難民を生んでいる。
 カチン州では、民族間の紛争による難民キャンプに併設された学校や、最近電気が通ったばかりの山奥の村にある教会など3カ所で、歯みがき教室を開催。モーガウンという町のYMCAの孤児院・学校にはエイズの子どもがいた。大麻やケシなどが栽培されているこの地域は麻薬中毒者も少なくなく、注射器の使い回しによってエイズがまん延。親からの垂直感染によって、子どもにまで及んでいた。
 歯みがきは虫歯予防だけではなく、エイズの薬の副作用である口内炎や舌炎なども減らす。1本の歯ブラシを使い回す家族には、よく洗って日光消毒して使ったり、デンタルフロスの代わりに裁縫糸を使ったりする方法など、現地に即したやり方を伝えた。
 報酬は子どもらの笑顔。最も安上がりで手軽、効果的な健康づくりの方法として、歯みがきの大切さを理解し、実行してもらえることを願いつつ、現地を後にした。

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