インフルエンザが流行、蔓延していますが、インフルエンザがきっかけで、歯ぐきが腫れてうむ、痛むことがあるのをご存じですか? 歯学博士で口腔衛生がご専門の江上歯科(大阪市北区)院長・江上一郎医師に詳しいお話を伺いました。

■免疫力の低下が原因

「歯ぐきが炎症を起こして腫れ、それが原因で歯も痛い、口臭がする、歯ぐきから出血するということがありますが、これは実は、歯周病の症状なんです。

初期段階では自覚症状がない人が多いのですが、風邪をひいた、インフルエンザにかかった、睡眠不足や疲れたときなど、免疫力が低下しているときには悪化することがあります。20代、30代にも多い症状で、歯周病菌が歯の組織内に侵入して感染し、菌が出す毒素で歯ぐきがうみ出すわけです。

インフルエンザウイルスがむし歯を直撃するという報告はありません。ですが、インフルエンザにかかるということは免疫力が低下している状態なので、歯周病の初期の人がインフルエンザや風邪をきっかけに、歯ぐきも歯も痛い、口臭がするといった症状が現れる可能性は大いにあります」と江上医師。

免疫力が低下して、インフルエンザウイルスと歯周病菌に同時に攻撃されたということでしょうか。

「そういうことです。歯周病は、その人の全身の状態と密接に関連します。前から進みつつあった歯ぐきの腫れを放っておいた場合、インフルエンザによる熱や疲労が原因で、それまで表面化していなかった歯周病菌が活動し始めることがあるのです。

体力が衰えていると日ごろから持っている悪い部位や病気が悪化するのはよくあることで、むし歯や歯ぐきが痛み出すのもその一つです」(江上医師)

■鼻やのどの炎症が、歯ぐき、歯の痛みを引き起こすことも

歯が浮く、やや痛むという経験がある人は多いでしょう。筆者は鼻をかんだときに歯ぐきが痛むことがあります。市販の鎮痛剤を飲んでごまかしていますが……。

「前から歯肉炎を持っていて、疲労でそれが痛み出すのでしょう。近いうちに鎮痛剤ではごまかしきれなくなりますよ」と江上医師は断言し、鼻やのどの炎症が歯と歯ぐきの痛みにつながることについてこう話します。

「インフルエンザや風邪をひくと、副鼻腔炎(ふくびくうえん。鼻のまわりにある骨に囲まれた空洞の炎症。慢性の場合は蓄膿・ちくのう症とも呼ぶ)になる人が多いのですが、同時に上の奥歯が痛むことがよくあります。

階段の昇り降りをすると歯の根の方から痛む、顔をおさえると痛いなどの症状ですが、この原因は、副鼻腔炎だけの場合と、副鼻腔炎プラス歯肉炎の場合とが考えられます。

後者の場合、鼻をかむという刺激が引き金で、上あごの空洞が炎症を起こすわけです。症状は重く長引き、完治までは耳鼻咽喉科と歯科の両方にかからざるを得なくなります」

鼻と歯の痛みが同時に起こるとそれは痛いでしょう。のどの痛みも重なるのでしょうか。
「当然、のどの炎症、へんとう炎、咽頭(いんとう)炎も、副鼻腔炎と歯の痛みを誘発します。ですから、上の奥歯が痛いと来院された患者さんには、特に冬場は、『インフルエンザは大丈夫でしたか』、一年を通しては『風邪はひいていませんか』、『アレルギー性鼻炎はありませんか。

のどはどうですか』などと聞いてから治療にかかります」(江上医師)

■口の中が不潔だとウイルスがとどまりやすい

江上医師は、「口の中が不潔だとインフルエンザにかかりやすい」と、次のように説明します。
「インフルエンザは口や鼻から感染します。歯磨きやうがいをあまりせずに、口の中がネバネバしたまま放っておくと、むし歯や歯肉炎のもとになる菌が繁殖し、そこにインフルエンザウイルスが混じって滞留しやすくなるという説があります。

口の中は雑菌が多いのですが、健康なときは、だ液が菌を洗浄し、また、菌を飲みこんで胃酸でウイルスを不活化させています。不潔なときや免疫力が低下しているときは、その機能が劣るわけです。

『口の中のケアを実施した人とそうでない人のインフルエンザ発症率を比較すると、前者のほうが発症率が10分の1になった』、という報告もあります」

予防する方法はあるのでしょうか。

「しんどいときは、水で口をゆすぐだけでもいいので、少しでも口の中を清潔にしておきましょう。

また、日常で、歯が浮く、歯ぐきから出血する、歯ぐきが腫れるなどの症状があれば、確実に歯周病を持っています。風邪をひく前に、元気で体力があるときに治療をしておくことが予防につながります」と江上医師。

インフルエンザで高熱が出ると、すぐには歯科に行けません。泣きっ面にハチとなる前に、歯磨きやうがいで口の中を清潔に保ち、また異変があれば早めに治療しておきたいものです。

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